婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

「あなたのような娘さんが心を痛めないことを祈っていますよ」

宗一郎の背をいっきに警告が貫いた。
体中の筋肉が緊張して張りつめ、虹彩が細く狭まる。

それ以上多々良をしゃべらせてやる気になれず、宗一郎は奈子をかばって前に立った。

「誰かが妻を傷つけることになると」

「いやいや、そうは言っていない。なにしろきみは鬼灯家の男だ」

宗一郎は黙っていた。

つまり多々良は、宗一郎こそが奈子を傷つけると言いたいのだ。
宗一郎の冷酷さがいつか奈子を冷たい海の底に引きずり込む。

つまらない挑発に、宗一郎はこっそり口の端をゆがめた。

瀕死の獲物は突然牙をむくことがある。
だけどたとえ多々良が宗一郎を恨んでいるとしても、奈子を脅す理由にはならない。

追い込みたくはなかったのに、多々良は自ら窮地に身を投じたのだ。

奈子を守るためなら、宗一郎はこれまで自分でさえ拒んできたほど、深く冷徹に身を沈めてもいい。

宗一郎を怒らせたことで満足したのか、多々良はふと右腕の時計を見下ろした。

「邪魔をして悪かったね。そろそろ失礼するよ」

凍りついたように黙り込む招待客を見回して、宗一郎に笑いかける。

「改めて、結婚おめでとう。末永く幸せに」
< 87 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop