堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
タロちゃんの車は、有名なドイツ車だった。副社長の車と同じメーカーだ。乗り心地のいい高級車は滑るように走った。
車の中は、古い洋楽が流れている。今どきの曲じゃないのがタロちゃんらしい。
こうして知らなかったタロちゃんのことを、少しずつ分かっていくようになるのかな…
幸せな気持ちがじんわりと沸いてきた。
貴船に着いた頃にはもうすっかり夜になっていた。
「旅館の夕食って早い時間だと思うけど、こんなに遅くても大丈夫?」
「大丈夫」
タロちゃんは慣れたように駐車場に停めると、彩芽のドアも開けてくれた。ためらいなく彩芽の手を取ると、建物の中に入っていく。
看板も何もない、一軒家のような建物だ。女将さんと思しき女性が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ」
「あぁ、ただいま」
女将さんは、にこやかに彩芽に微笑む。
「お嬢様もよくお越しくださいました」
「お世話になります」
彩芽も笑顔で答えた。
タロちゃんは、自分の家のような気楽さで、廊下をどんどん歩く。
「タロちゃん、常連なの?女将さん『お帰りなさいませ』って言ってたね」
タロちゃんはただ微笑んだ。