堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く

通勤電車の扉が開き、多くの人が吐き出される。秋が深まり、厚手のコートを着る人が増えてきた。これからはますます電車も混む一方だ。

彩芽はフッと息を吐いた。

タロちゃんと貴船で過ごしてから、四ヶ月が経った。その間一度も連絡はない。

最後の別れ際に、「必ず迎えに行く」と念を押すタロちゃんに、「指切りげんまんね」と言って笑って小指を絡ませた。

その温もりを指がまだ覚えている。だから大丈夫。彩芽はそう言い聞かせて日々を過ごしていた。

従業員専用口から館内に入り、秘書課に続く扉を開ける。

「おはようございます!」
明るい挨拶が聞こえてきた、

「おはよう。遅くなってごめんね」
声をかけつつ自席に向かうと、雑巾を持った百合ちゃんが「私が勝手にしてることなので、気にしないでください」と笑いながら言った。

思わず笑みがこぼれる。以前、彩芽が言っていたことと全く同じだったからだ。

彩芽も雑巾を持ってきて、楽しく話をしながら掃除を済ませる。二人でやるとあっという間だ。
給湯室の掃除を終えるころに、美鈴さんがやってきた。

「おはよう。ごめんねぇ。また遅くなってしまったわ」

「私もさっき来たところです。今日も百合ちゃんが頑張ってくれました」

百合ちゃんに向かって拍手をすると、「とんでもない!美鈴さんと彩芽さんの方が、私より百倍忙しいですから」と慌てて否定した。

「いいねぇ、労わり合う師弟愛。私も混ぜてー」と言いながら、美鈴さんが抱きついてくる。

笑い声が響く。今日も秘書課はにぎやかだ。

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