さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
色褪せた写真の中のきみは


 新幹線を東京駅で下車し地下鉄を乗り継いでやってきたのは、江戸川の河口にほど近い下町だった。江戸川を挟んで対岸はもう千葉県だ。
 駅から少し離れると、アパートやマンションが並んだ素っ気ない住宅地が続く。単身者用の賃貸住宅が多く、平日の昼間は特に静かだった。

「懐かしいな」
「……懐かしいの?」
「ああ、僕はここじゃないけど、近くの街に住んでいたんだよ」
「ふーん」

 ホタルは興味なさそうに相槌を打つと、透の手を引っ張った。

「ねぇ、トオル、こっちじゃない?」

 慣れない都会で迷子にならないようにという理由があるにせよ、二十代半ばの男が小学校高学年の女の子と手をつないでいるという状況がなんとなく恥ずかしい。親子にはさすがに見えないだろう。年の離れた兄妹……も、少し無理があるか。

「うん、そうだね。もう少しだ」

 透はスマートフォンで地図を見ながら小さくホタルにうなずいて、額の汗をぬぐった。
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