さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
「透くん……?」

 杏子に声をかけられて、透はふっと我に返った。

「大丈夫?」
「はい……」

 静かに立ち上がった杏子はカウンターから布巾を持ってきて、溶けたアイスクリームで汚れたテーブルをふいた。

「何か別のものを作りましょうか?」
「いえ……、すみません」

 クリームソーダのグラスを下げ、透の前に座り直りした杏子は唇の端を上げ笑顔を形作った。

「気にしないで。……わたし、ずっと透くんに謝りたかったの」
「謝る?」
「あなたのせいじゃないのに、あなたを責めてしまったこと。もしかしたら透くんは、そのことで自分を責めつづけているんじゃないかと思って」

 なんの話だ?
 僕が自分を責めつづけている? なぜ?

「わたしは幼いあなたを詰ることでしか、自分を保てなかった。本当にごめんなさい」

 何を?
 何を、自分はこのひとに詰られたのだろう?

「すべてはあの夏のせいなのよ。……苦しいくらい暑かった、あの夏の」

 あの、夏。





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