さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
「ゆっくり見ていってくださいね」
「はぁい、ありがとうございます」

 それでもできるだけ優しい声音を意識して声をかけると、透を見た女性客がきゃらきゃらと笑う。最近地元の城址公園がドラマの舞台になったらしく、ぽつりぽつりと若い女性が訪れるようになった。

 透は炭酸水をぐいっとあおると、小さくため息を吐いた。女性、特に若い女の人はあまり得意ではない。

 そこそこ背も高いし体もそれなりに鍛えているのに、もともとの線の細い柔らかな雰囲気のせいか、同年代の女性からも弟のように扱われることが多かった。二十五歳にもなって、同期の女性から『トオルちゃんってなんだか仔鹿みたいで可愛いよね』と言われた時にはさすがに抗議したが。

 それはほんの数か月前のことなのに、はるか昔のような気がした。東京と、この祖母の暮らしていた小さな街。物理的な距離のせいで、そう感じるのだろうか。
 それとも、疲れ果てた心が田舎の空気にようやく癒されはじめているのか。

「雰囲気のいいお店ですねぇ」
「表の看板もレトロで素敵」
「ありがとうございます。大正時代の建物らしいですよ」
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