さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
 そして、美しいと言ってもいいほどの顔立ちなのに、その服装はどこか古くさい。弟妹も子供も、恋人すらいない独身の透はまったく詳しくはないが、今どきの子供はもっと華やかに装っている気がする。

「えーっと、このフォトフレームの買い取りは……十五年前か。結構経っているね」
「…………」

 十五年前と言えば、透も十歳。彼女と同じくらいの年ごろだ。
 同じ県内ではあるが、古城市とは別の街に住んでいた透は小学校が夏休みになると、いつも祖母の家に遊びに来ていた。半月ほど祖母と二人で過ごし、また実家に戻るのだ。シングルマザーとして朝から晩まで働いていた母は、やんちゃ盛りの男の子を祖母に預け、ひととき体を休めていたのだろう。

 古い台帳を見ていると、当時の想い出があれこれとよみがえる。ふと、台帳に記された名前に引っかかりを覚えた。

「……きみ、名前はなんて言うの? どこの子だい?」
「…………」

 祖母はその時、写真立て以外にもたくさんの雑貨を引き取っていた。売り物にもならなさそうな、取るに足らない生活用品を。

 夕凪杏子(ゆうなぎきょうこ)
 それが、それらの品を売りに来たひとの名だった。
< 8 / 44 >

この作品をシェア

pagetop