桜の花びらが降る頃、きみに恋をする

* * *

「そういえば、蒼に渡すものがあるの」

病室でしばらく泣いた後、お母さんは私に“あるもの”を渡してくれた。

「これって‥‥‥お父さんがプレゼントしてくれたイルカのキーホルダー」

「そうだよ。あの子が拾って渡してくれたのよ」

「‥‥‥あの子?」

一体、誰なんだろう。

「事故直後、蒼の傍にいた子よ。覚えているでしょ?」

そうお母さんに言われて、事故直後のことを思い出そうとするもなかなか思い出せない。

ただ思い出すのは、車に轢かれる寸前にお父さんが庇ってくれたことまでしか私の記憶になかった。

静かに首を横に振る。

そんな私を不審に思ったのかお母さんはナースコールを押して医者を呼んだ。

しばらくすると、白衣を来た30代前半くらいの男性が部屋に入ってきた。

お母さんとなにやら話をしている。

その様子をぼんやりと見ていると、先生が私に近づいてきて慰めるような優しい口調で言った。
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