学園怪談
 そして、それからしばらくして……。
「……ひ、ひどい」
 僕達は花壇の前で立ち尽くしていた。今まで手入れを一生懸命にしてきた花がつぼみをつけたばかりだったのに、それらが全て折られていたからだ。
「いったい誰がこんなことを……」
 徹もこの事件には心を痛めたらしく、折れた花たちの世話を一緒にやってくれた。
 花は蕾の部分だけ吹き飛んでいるものや、それらの上下数センチのところから吹き飛んでいるものが多かった。断面がグチャグチャなところから考えると、ナイフのようなもので斬られた訳ではないようだ。
 ……キミはこれがいったい何の切り痕だと思う?
 こんな遊びがあるんだ。ちょうどバットを綺麗に振りぬくと、蕾だけが吹き飛んで、茎の部分は残される。さらにうまく蕾に当たると、蕾は衝撃で割れて「パァン」という小さな音を立てる。その感触が手に伝わると、もの凄い快感を味わうことができるらしい。
 ……いや、僕はやったことはないよ。あくまでそういう遊びがあるっていう話を聞いただけ。でも残酷な遊びだよね。いや、遊びというよりは殺人といっしょだよね。花だって生きている。だから、そんな花の蕾をバットで振り払うなんて僕には考えただけで恐ろしく感じてしまう。
 こんなことが数日の間続き、学園の花壇はほとんど全てが壊滅状態に陥っていた。しかし植物の生命ってのは凄いもので、最初被害に遭った花壇などは少しずつ花達も持ち返していた。
 ……ある日の夜、僕と徹は事の真相を確かめるため、夜の学園に忍び込んでいた。
「誰も来ないかもしれないのにお前も物好きだよな」
「許せないよ。みんなが一生懸命に育てた花たちを殺すなんて」
 僕はいつになく憤慨していた。犯人を見つけたら殴りかかっていたかもしれない。まあ、喧嘩の弱い僕が出て行っても、逆にボロボロにされるのがオチだろうけど。
 僕と徹は一番近い教室の中から静観していた。もし犯人を見つけたらいつでも出て行けるように窓際に隠れて注意深く花壇を見張っていたんだ。
「……ん! 誰か来た!」
 徹の声に、現れた人物を確認する。人影は二人。外灯に照らされた顔は……あの1年生の飼育委員の二人だった。
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