政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


私の仕事は接客業なので、休みは毎週水曜日と第一、第三木曜日。一方の蓮見さんの休みは、カレンダー通りなので、基本的には土日は休んでいる。

私が仕事に出ている土日、蓮見さんがどう過ごしているのかを気にしたことも聞いたこともなかったけれど、もっと興味を持っておけばよかったと後悔した。

せめて、朝食のときに〝その日の予定〟くらいは軽く話題に挙げてもよかった。そうすれば、私の職場でばったり顔を合わせるなんて事態にならずに済んだかもしれない。

朝、私を近くまで車で送ってくれたときには、父と会うなんて話も、来訪予定なんて話もしていなかったのに。

余談だけれど、柳原さんの一件以降、蓮見さんは少し変わった。

まず、私がひとりで在宅しているときに鳴ったインターホンは基本無視するようにと言い出し、蓮見さんが休みの日は私の職場まで送り迎えするようになり……あと、呼吸するようにキスしてくるようになった。

〝いってきます〟や〝おかえりなさい〟〝おやすみなさい〟といった挨拶ではないタイミングでも、たとえば私がキッチンに立っているときだったり、お風呂に入ろうとしてリビングですれ違うときだったり、なにかにつけてキスされている。

触れるだけのキスなので、今更文句があるわけではないのだけれど……なんだか、まるで恋人同士みたいで困るのだ。

体の関係に流れないただのキスなんて、ただただ甘くて照れるだけなので……嫌だとかそんなんじゃなく、純粋に困っているし、蓮見さんの意図も図りかねている。

こんなの、蓮見さんが当初嫌がっていた〝ベタベタした関係〟ではないのだろうか。
まぁ、当の本人が至って無表情なのでそこまでの甘さはないのだけれど。

そんな疑問を抱えたまま迎えている土曜日の十一時。場所は社長室。
じっと見ている私の視線を横顔に受けても、ジャケット姿の蓮見さんは動じず眼差しを返すだけだった。

その向かいではスーツを着た父がご機嫌に笑っている。

< 139 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop