政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
放課後の廊下。
聞こえてくる心無い声。
あの時を再現しているような現実に心が打ち砕かれ、涙が浮かぶ。
――また、私の一方通行だ。
手遅れだと、たしかに聞こえた警鐘に、中途半端に浮いていた手が、ポスンとベッドに落ちた。
蓮見さんが私を大事にするのは〝妻〟だから。
優しく触れるのだって、情熱的に抱くのだって、過剰に心配するのだって、全部〝私〟だからじゃない。
励ますのも、料理を褒めるのも、〝私〟だからじゃない。
相手が誰でも〝妻〟なら、蓮見さんは同じように触れて、同じように大事にするんだ。
蓮見さんに私への特別な感情はなくて、私だけが……。
――私だけが蓮見さんを好きなんだ。
いつからか心の片隅に生まれていた気持ちに視界の端では気付きながらも知らんぷりしてきた
だって、気付いたところでどうにもならないと最初から知っていたから。
蓮見さんがこの結婚に求めるものなんて、本当に初めからわかっていたのに……。
静かに涙が溢れる。
私の様子がおかしいことに気付いたのか、蓮見さんが上半身を起こして私の顔をのぞき、目を見開いた。
「春乃? どうした?」
心配がうかがえる声をかけられた途端、ダムが決壊したように涙が溢れた。