政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


『それで、例の計画は順調なのか?』

携帯越しの声は、周りの喧騒が混じりひどく聞き取りにくい。
どこにいるのだか知らないが、人に電話をかけるなら場所を選べと眉を寄せた。

「問題ない」
『まぁ、時間かければどうとでもなるだろ』
「そこまでの時間をかけるつもりもない。長くて数ヵ月と考えている」

あまりにひどい雑音に、一度携帯を離してから続けた。

「場所と時間を考えてまたかけ直せ。耳がおかしくなりそうだ」
『ああ、やっぱりうるさい? 悪い悪い。またかける』

まったく悪くなど思っていないカラッとした声で言われ、ひとつ息をついてから電話を切る。

二十畳ほどの部屋には、南側にある窓からは秋の柔らかい日が差し込んでいた。
黒に近いグレーのタイルの床に、白い壁と天井。高さのある本棚とデスクは木製で、他には誰が世話をしているのかも知らない観葉植物が置かれている以外何もなく、殺風景ではあるが、仕事場なので気にはならない。

こんなことを声にしたら最近同居を始めた春乃は顔をしかめるだろうが、気に入ろうが気に入らなかろうが、その空間への評価が仕事の効率に繋がることはまずない。

個人差はあれど、俺の意見としては道具が手元にあるのならば、あと環境として望むのは静かさくらいだった。

そういう意味では、家に誰かがいるという点から仕事の効率は下がっているが、今のところ気になるほどではない。

携帯をスーツの内ポケットにしまっているところで、デスクから距離を置きこちらを見ている秘書の瀬野に視線を移した。

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