愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】

波瀾にのまれて

［１］

朝からずっと、梅雨明けを惜しむような雨が降り続いていた。

さすがに七月半ばにもなれば、梅雨入りした頃のような肌寒さはなく、じっとりと蒸し暑い。
くくることのできない長さの髪は、こういう時は不便。首周りがじっとり汗ばんでいたので、とりあえずシャツワンピ―スの襟のボタンをふたつ目まで開けてみた。

季節が進むのと同じようにわたしの妊娠週数も進み、もう十四週。
つわりは前より幾分楽にはなっているけれど、まだ妊娠前のような食欲はなくて、二週間後の安定期がただただ待ち遠しかった。

そんな中、来週は久しぶりの妊婦健診。一緒に行くと言っていた祥さんだけれど、ここのところ前にも増してご多忙。出張もあれば深夜まで仕事をしていることもあるから、妊婦健診の付き添いは無理かもしれないなぁと、ひそかに思っていた。

祥さんは今も出張で一昨日から留守にしている。今回は九州だそうだ。
九州へ赴くのはあの時以来初めてなので、時間があれば森乃やに顔を出して両親や店の様子を見てくると言ってくれた。

何も知らない頃のわたしだったら、きっとそのことを『実家のことまで気にかけてくれて嬉しい』と喜んだだろう。

けれど、祥さんが森乃やへ融資したことを知っている今、心の底からは喜べない。彼が見に行くのは、『妻の実家』ではなく『融資先の店』。

勘違いしてはいけない。

わたしと祥さんの入籍の裏で、いったい何があったのか。
それを知ってから二週間経つけれど、表面上はそれまでと同じ日々を送っていた。

だけど―――。