愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
安堵のせいか足から気が抜けて、ふにゃふにゃとその場に座り込む。胸の底から強烈な吐き気が込み上げて、わたしは口元を手で覆って「うっ」と嘔吐(えず)いた。

さっき荒尾に噛みついた時の感触が、まだ鮮明に口の中に残っている。
同時に、錆臭い味が荒尾の血なのだと気が付いた瞬間、また吐き気が込み上げた。

多分さっき噛みついた時に、荒尾の耳が切れたのだろう。振りほどかれないようにすることに必死だったせいで、あごにどんどん力が入った気がする。

連鎖反応のように、少し前に無理やり入れられた舌の感覚までがよみがえってきて、気持ち悪すぎて何度も嘔吐いてしまう。
祥さんとは、一番初めの時からこんなふうに感じたことは一度もなかったのに―――。

わたし、最初から祥さんのことが好きだったんだ。

生理的な涙をぽろぽろとこぼし吐き気と闘いながら、わたしは初めてそのことに気が付いた。
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