悪いコの味方!


やっとの思いで視線を彼に向けると、目が合ったかわからないほど自然な流れでキスをして、頭を優しくなでられて、せわしなく動く心臓をなだめるように彼の洋服の裾を握る。


それがスイッチみたいに、またくちづけの雨がこぼれて、「好き」「大好き」なんて気持ちが溢れて、それを伝える術のように、広いシーツの波の中で肌を重ね合わせて────



目の前の光景は、そんな理想とは程遠い。


動物みたい。綺麗でもない。それなのに、どうして目が離せないんだろう。どうしてどきどきするんだろう。…うらやましいって、思ってしまう。あんなふうに、ぶつかり合うみたいに相手を求めるってどんな気分なの。


真篠くんは、本当にあの子を求めてるの?


誰彼構わず求めたくなるほど、気持ちがいいことなの?



彼の口元が女の子の鎖骨をなめる。


あれは他クラスのバスケ部の子。普段はスポーツ少女って感じで活発な印象だったけど、今はとろけちゃいそうな瞳で彼を見て肌を赤く染めている。


指先が下着の肩ひもにかかる。それは肩のほうからするすると下に降りていき、背中にまわる。


ついに脱がせてしまうのね!?と食い入るように見ていると、お腹に埋められていた顔が勢いよく上がってこっちを振り返った。



廊下から見ていたわたしはのけぞり返る。


ぜったい、ぜったいにバレた。逃げなくては。


徒競走はわりと得意なほうで、中学の頃は陸上部だった。とりあえずダッシュしようとしたけど、慌てすぎて自分の足と足が絡んで倒れ込んだ。



「ぎゃっ」



痛い…早く逃げないと怒られるのに。



「なにやってんの」



案の定不機嫌そうな声が上から降ってくる。


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