香澄side 最初のものがたり
ナナちゃんに見せつけようと思った。
ツバサくんに必要以上に触れたり、
甘えたり。
でも、そんな風に思ったのは最初だけで、
後は夢中だった。
映画に。
何してるのかな、私。
もっとくっついて揺さぶれば良かったのに。
気が付くとエンドロール。
単純に面白かった。
うん、いい映画だったな。
時々、こういう映画に会える。
元々ジャンル問わず、映画は好きだった。
その時間だけ別の人格になれるようで、
惹き込まれて。
それが、ホラーでも。
今回のは日本のTheお化けもの。
だから、ストーリーもしっかりしていて、
何に恨んでどんな裏切りをうけて、
絶望して...。
全てが悲しくて
全てが美しくて。
いい話だった。
ちょっと感動して泣いた。
気づかれないように、そっと涙を拭ったけど、
横のツバサくんを見て、驚いた。
結構、号泣してる。
私と目が合うと、そのまま笑顔になった。
「泣けるね、いい映画だったね。
ものすごく、良かった。」
そう言ってまた泣く。
「うん、千代さんが、
入水自殺したあとからの
展開が良かった。」
私も素直に伝えた。
「やっぱり、そこ、いいよね。」
2人でエンドロールを見ながら、
コソコソと話す。
「香澄ちゃん、こういうの好きなら、
お勧めあるよ。」
そう話すツバサくんのお勧めは
私もお気に入りの映画だった。
「えー香澄ちゃんも観てたかぁ。
え、じゃあこれは?」
それも、知ってた。
代わりに私がお勧めしてみても、
「俺も好き」
2人の映画の好みが一緒だった。
これって奇跡だ。
館内が明るくなって騒がしくなった。
周囲の視線を集めている気がして、
工藤くんが一緒だった事を思い出した。
私、ナナちゃんと工藤くんのこと、忘れてた。
それにしても周りが騒がしい。
女の子達が、チラチラと工藤くんを見てる。
わざわざ遠回りして、工藤くんの横を
通り過ぎ会場から出ていく子もいる。
きゃっきゃっ華やいでいる。
単純に工藤くんを見たい子たちはいい。
問題は、嫉妬丸出しで悪意の塊。
ナナちゃんへのキツイ視線を投げる。
わざと聞こえるように嫌味を言う子もいた。
結構、ヒドイ!
私なら泣きたくなる!
工藤くんに隠れたり、
守ってもらいたいし、逃げ出したい!
ナナちゃんだって、
きっと工藤くんに甘えるはずだと思って
様子を見ていた。
なのに、ナナちゃんは全く無視をしてる。
聞こえないのかと思ってだけど、
時々、相手を睨んだりしてるから、
認知はしてるんだ。
それに対して工藤くんも、ただ笑ったり、
睨むナナちゃんに「怖ぇー」と言うばかり。
なんなのかな。
笑える事じゃないのに。
工藤くんのせいで意地悪言われてるのに。
ナナちゃん自身は悪くないのに。
自分のせいで、女の子がツライ思いを
しているのに。
2人とも、なんかおかしい。
せっかくのチャンスでもあるのに。
工藤くんを狙うなら、
あなたのせいなんだから守ってって、言える。
それに、工藤くんを連れて来たのは、
これが目的でしょ?
ツバサくんの前で、みんなに嫉妬されて
ツライアピールをするのが!
なのに、ツライ表情1つ見せない!
なんで?
分からない!