香澄side 最初のものがたり
がっしりとしたツバサくんに包まれて、
すごく幸せ。
もっともっとくっついていたい。
そう思ったのに!
突然、私を離して
「なぁなに報告しよう!なぁなに言わないと」
そう言って駆け出した。
砂に足を取られ上手く走れない私に
気がつき、手を繋いでくれた。
まぁ、いいか。
これがツバサくんだ。
好きって言ってくれて、彼氏になってくれた。
手も繋いでくれる。
手を引かれ工藤くんとナナちゃんへ
近づいた。
2人は波打ち際で遊んでいた。
私達に気がつくと、工藤くんは自分の
ジャケットをナナちゃんの肩にかけ、
そのまま肩を抱いた。
その姿にツバサくんが、
動揺しているのが分かった。
そっか。
ナナちゃんに彼氏ができるってなったら、
それは嫌なのかもしれない。
本当は深いところで、
ツバサくんもナナちゃんが好きで、
工藤くんに奪われるってなったら、
想いが溢れるって、あるのかもしれない。
急に不安が押し寄せてきた。
繋いだ手を離さないで。
今、離されたら、
捨てられた気持ちになるから。
だけど、ツバサくんは私の手を離さず、
ナナちゃんへ話しかけた。
「工藤と付き合うの?」
肩を抱かれている事を指している。
「ううん、俺たちは友達だよ。ね、ナナ」
工藤くんが代わりに答えた。
友だちが、こんな事はしない。
ツバサくんにだって分かる。
だけど。
「工藤、それならなぁなに気安く触るな。
なぁなは工藤の取り巻きの女の子とは違うんだ。
真剣に付き合わないなら、なぁなに近づかないで」
それはどういう意味なの?
やっぱり、ナナちゃんの事が好き?
不安が駆け巡る。
「真剣に付き合うならいいの?」
工藤くんが怒ってる。
こんな顔をするんだ。
ナナちゃんの事、
本当に好きなのかもしれない。
ナナちゃんの想いも知っていて、
振り回すツバサくんが許せないんだ。
ナナちゃんの言う通り。
工藤くんは優しい。
「いや、まぁそうなら、
俺は何も言えないけど。
でもなぁなが何て言うか分かんないし。
なぁなは工藤みたいな派手な奴を
好きにならないと思うし。
でも好きなら、」
しどろもどろのツバサくん。
ああ、そうか。
ツバサくんはナナちゃんを心配してるんだ。
彼氏ができるのは嬉しいけど、相手が
ファンクラブもある工藤くんっていうのが
心配なんだ。
しかも、工藤くん、ツバサくんとは
全く違うタイプ。
積極的で、スキンシップ多め。
ツバサくんには刺激が強い。
工藤くんは手加減をしない。
どっちつかずでフラフラするツバサくんに
イライラしている。
だけど、ツバサくんもいつもと違う。
怒っている。