香澄side 最初のものがたり
翌日、登校すると、昇降口付近で
野球部の集団と一緒になった。

両手にグローブとボールを持ち、
肩には大きなバックをかけて、
佐藤くんが歩いていた。

きっと小中と、野球部だったんだろうな。
坊主だったに違いない。

うちの北高では運動部も髪型は自由だ。
野球部もそれは同じ。

伸ばし始めの短髪って感じ。

目鼻立ちもハッキリしていて、
眉も瞳も黒くて大きいから、濃いイメージ。

精悍なスポーツマンなのに、
彼女にはあんなにデレるのね。

あんまり見ていたせいか、前を歩いていた
佐藤くんが振り返り、私を見た。

動揺して、思わず、立ち止まってしまった。

「おはよう、立川さん。」

ニコニコ笑って近づいてきた。

え、なんで、来るの?

「ねぇ、マネージャーやりたいって、
言ってたよね、部長いるから、紹介するね」

ニコニコ笑ったまま、部長らしき人に
声をかけ、呼んで来た。

え、うそ。

想像以上の展開に頭がついていかず、
どんな言い訳をし、どうやって断ればいいのか、
何もアイディアがわかない。

そんな私を無視して、

「同じクラスの立川さんです。
野球やりたいらしいんだけど、
女子の野球部はないし、
諦めてたらしいんです。」

え、違う、そんな事、私、言ってない。

だけど、もう、この場では言えない。

取り繕うように笑顔で流す。

「へぇ、君みたいな子が、
野球に興味あるなんて嬉しいなぁ」

部長が軽く笑う。

その言葉に少しカチンときた。

君みたいな子?

私みたいに何も本気にならない子が、
野球とか言ったらおかしいって話?

「私、本気でマネージャーやりたいって
思ってます。」

気がついたら、そう言い切っていた。

部長とがっしりと握手を交わし、
もう後戻りはできなかった。

佐藤くんは「よかったね」と満足そうだ。

もう、やだ。

結局、私は野球部のマネージャーとなり、
その日の放課後から、部活動が開始した。

「え、香澄、野球部のマネージャーするの?
なんで?遊べないじゃん」

「香澄って、そういうタイプだっけ?」

「誰か狙ってる人、いるとか?」

友だちはみんな私のらしくない行動に
不審がっていた。

でも、最終的には
「香澄がやりたいなら仕方ないね。
部活がない時には遊ぼうね」

と言って応援してくれた。

よかった、今まで通りだ。

でも、本当は今まで通りなんかじゃなかった。

野球部ではマネージャーの先輩達から、
部員目当てのチャチャラした子と認定され、
ちょっと意地悪をされていた。

だから、余計に負けたくなかった。

チャチャラなんてしてない。

私だってやる時はやれるもの。

変な意地になっていた。

だから、周りの変化に全く気が付く事が
できなかった。
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