エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~

突きつけられた現実

「千春?」

 人気のない廊下をひとり歩いていた千春は声をかけられて振り返る。
 見覚えのある女性が立っていた。

「あやちゃん……」

 従姉妹の結城絢音だった。眉を上げて、千春の頭のてっぺんから足先までをジロジロと見ている。

「あの……久しぶり」

 千春は恐る恐るあいさつをした。
 最後に会ったのは見合いの日の前日だから、もう二カ月になる。
 絢音は千春の言葉には答えずに、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「あいかわらず、ダサいのね」

 そう言う彼女は華やかだった。
 明るい栗色の髪を綺麗に巻いて、はっきりとした目鼻立ちに派手なメイク、光沢のある赤いドレスは胸元が大きく開いたデザインで、さっき清司郎を取り囲んでいた女性たちに負けずとも劣らない。
 千春はなにも言い返すことができないままに、手をもじもじさせた。
 彼女が放つ威圧的な空気はいつも千春を萎縮させる。
 まるで結城の屋敷にいた頃に戻ったような気分だった。

「チャリティーなんてくだらないことに興味はないけど、清司郎さんが出席するって聞いたから来てみれば……なに、あんたついてきたの? 清司郎さんの妻気取りってわけ? あんたみたいな出来損ないの欠陥品、全然清司郎さん相応しくないのに。……調子に乗らないで!」

 絢音の方も家にいた時とまったく変わらなかった。あいかわらず千春に対しては言いたい放題。
 でもその内容に、千春は少し驚いていた。
 彼女は清司郎に会うためにここへ来たのだという。そして、千春が彼と結婚したことをこんなにも怒っている。

 ということは、絢音は清司郎のことを……?

 驚きなにも答えられない千春に、絢音は苛立ちをぶつけ続ける。
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