エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~

結納

 日本庭園を望む料亭の和室で、千春は大林夏彦と彼の父親大林大輔を前にうつむいて座っている。
 隣には叔父の芳人がいて、彼らと嬉しそうに談笑していた。
 入口付近には澤田が千春を見張るように座っていて、千春が手洗いにでも立とうものならついてくる徹底ぶりだ。
 結納はしきたりにのっとって滞りなく行われた。
 もう絶対に逃げられない状況まで来てしまったのだ。
 夏彦はさっきから粘着くような目で千春を見ている。彼と目が合うたびに千春の背中は泡立った。

「それにしてもかわいらしいお嬢さんだ。夏彦が夢中になるのも納得だな。いやもう少し若かったらワシが嫁に欲しいくらいだ!」

 大輔はそう言って、はははと声をあげる。
 でっぷりと脂ぎった男の大輔も本能的に苦手だと千春は思う。
 もう今すぐにでも逃げ出したいくらいだった。
 こんな人たちと家族になるなんて耐えられない。でも耐えなければ清司郎の医師としての未来も奪われることになるのだ。
 千春は唇を噛んで溢れそうな涙をぐっと堪えた。

「式はどうしようか、結城君。夏彦はもう今すぐにでも挙げたいそうだが」

 大輔の言葉に、芳人はやや慌てて答える。

「そ、そうですね。こちらとしてはいつでも……。ですが先生、もうすぐ臨時国会でしょう? 終わってからの方がいいのでは?」

 清司郎と千春の離婚がまだ成立していないことを隠そうと必死だ。

「ああ、確かに」

 大輔が頷いた。
 すると夏彦がじっとりと千春を見て口を開いた。
< 159 / 193 >

この作品をシェア

pagetop