外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


 その後、肉料理、デザートとコース料理を堪能して、レストランを後にしたのは午後八時を少し回った頃だった。

 チェックの声をかけた大河内さんはスマートに支払いを済ませてしまい、慌ててお財布を取り出した私に支払いを断った。

 自分が同行してほしいと頼んだのだから当たり前だと言い、「ご迷惑でしたか?」と丁寧に言われてしまうと大人しく「ごちそうさまでした」と頭を下げるしかなかった。

 滞在中のホテルまで送ってくれるという大河内さんとタクシーに乗り込み、運転手にホテル名を告げる。


「私がおすすめのお店を伺ったのが、こんな、レストランでご馳走になってしまうという展開になってしまい……なんか、すみませんでした」

「いえ。お気になさらず。こちらこそプロから興味深い話も聞けましたし、有意義な時間を過ごさせていただきました」

「そんな、全然! 私なんかの話でよければいくらでも話しますし」


 後部シートで並んで掛ける大河内さんは、私にちらりと視線を寄越してクスッと笑ってみせる。

 そして「確かに……」と振り返るように視線を進行方向に泳がせた。

< 65 / 254 >

この作品をシェア

pagetop