過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
教会での挙式プランの企画は、ポスター撮りの詳細も決まり、急ピッチで準備が進められている。あっという間に時間過ぎていくような忙しさが、なんだか心地よい。
私が何も聞かなかったと平静を装っているうちに、まるでそれが真実になったような錯覚に陥っているのかもしれない。

撮影を翌日に控えた今日。仕事も区切りがついて、そろそろ帰宅しようと荷物をまとめた。
この季節、外へ出れば途端に蒸し暑い空気がまとわりついてくる。日は陰ってきたというのに、熱さは一向に収まる気配がない。汗ばんむ首筋をハンカチで拭いながら、人の流れに沿って歩きはじめた。

「美香!」

不意に聞き覚えのある声に名前を呼ばれて、足を止めた。
振り向いて見知った顔を見つけた瞬間、ギクリと体を強張らせた。

「さく……き、桐嶋さん」

どうしてここに朔也がいるのだろうか。心の準備のないままの対面に、思わず狼狽えてしまった。
 
「ずいぶんと他人行儀だな」

された仕打ちを考えれば、もう二度と関わりたくない相手だ。友好的な反応ができるわけがないと、本人だってわかっているだろうに。
せめてもの意思表示に、両足にぐっと力を入れて背筋を伸ばすと、なんの感情のこもらない視線を向けた。

帰宅者の多い時間帯だ。いくつもの他人の目がある中で、まさか変なことはしてこないだろうと思う。ただ、急ぎ足で通り過ぎていく人たちの中に、こちらを気にかけてくれる人がいるのか不安だが。

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