呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「パトリック・キッフェンが社交界でエオノラの悪口を吹聴していることは知っているね?」
「ええ、シュリアから聞いているわ」
「俺の方でもシュリアや友人を通して内容を把握していたんだけど、いよいよそれが度を超すものになってきたんだ」
 ゼレクによると、昨日の夜会でまたもやリックがエオノラの評判を落とす発言をしていたらしい。その内容とは、エオノラが実は尻軽で既婚者や婚約内定者関係なく好みの男に見つけると手当たり次第に言い寄っている。だから家族は社交界デビューを遅らせているというものだ。

 自分の保身を図るためとはいえ、最後の最後までこちらの顔に泥を塗るリックにやるせなさと怒りを覚えるが、ここまでくるといっそ清々しい。そして、どうしてあんな男のために好かれようとしていたのか馬鹿らしくなってくる。
 呆れて溜め息を吐いていると、ゼレクはさらに続けた。まだ続きがあるらしい。

「一番許せないのはその後の言葉だ。社交界に顔を出せず男に飢えているから、死神屋敷に赴いてラヴァループス侯爵に言い寄ろうと屋敷周辺を彷徨いているって吹聴している。どれだけエオノラを侮辱すれば気が済むんだ!」
「……ええ、本当にそうね」
 話を聞いたエオノラは一瞬、頭が真っ白になった。何故、死神屋敷に通っていることが知られているのだろう。
 リックと最後に会ったのは誕生日パーティーでそれ以降は一度も会っていない。しかしそこである人物の姿が頭に浮かんだ。

(可能性があるなら……それはアリアだわ。だって昨日アリアと話した後、私は無我夢中で死神屋敷へ走っていったんだもの)
 しかし、もう一人の自分が異を唱える。
 アリアは他人に何かを言いつけるような子ではない。失敗や秘密を知ってしまっても黙っていてくれるような心優しい子だ。彼女がリックに告げ口するのは見当違いだろう。
(死神屋敷に通っているっていう話はきっとリックの出任せで偶然よ……)

 俯いて黙考していると、ゼレクの溜め息が聞こえてきた。
「念のため確認するけど、死神屋敷には行ってないよね?」
「もちろん。お兄様ったら私があんな場所へ行くわけないじゃないの」
 即答するも、内心嘘をついて罪悪感を覚えた。正直に話せばゼレクを悲しませることになるので口が裂けても言えない。
 胸を張って微笑んでみせると、ゼレクはこちらの様子を見て安堵した。
「そうだね。エオノラはそんな子じゃないのに、疑ってしまって悪かったよ。ごめんね」
 ゼレクは謝罪すると、続いて嘆息を漏らす。

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