呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 ゼレクも隣に腰を下ろしてエオノラと同じものを啜りながら、話を切り出した。
「昨夜、政務室に戻って仕事をしていたら第二王子殿下が現れた。エオノラの話を聞いてとても驚いたよ。まさに寝耳に水だった」
 ゼレクは独り言のように呟く。
 リックとの婚約が解消されて以降、ゼレクはずっと自分のことを心配してくれていたに違いない。彼の心情を思うと申し訳ない気持ちになった。
「少し前から一人で散歩と言って出歩いていることはジョンから聞いていた。それは第二王子殿下の絡みで出歩いていたのかい?」
「ええ。だけど危険なことは何もないから心配しないで」
 ハリーは医学や薬学などに精通しているため、もしかするとゼレクは臨床試験に参加していると思っているのかもしれない。これ以上、心配を掛けまいとエオノラは補足した。

 すると、ゼレクが思わずといった様子で苦笑する。
「殿下からも同じことを言われたよ。薬草を集める手伝いをしていると聞いている。最初は驚いたけど合点がいった。前よりも表情が明るくなったから」
 ゼレクの言葉にエオノラは目を見張る。
「それは本当?」
「うん、本当だよ」
 ゼレクは柔和に微笑んで力強く頷いた。
「俺だけじゃない、ジョンやイヴも。この屋敷にいる使用人全員がそう思っている。お嬢様が元気になって嬉しいって言っていたよ」
 周りから見ても、もう自分は悲愴感が漂う人間ではないようだ。それが分かった途端、過去という重い鎖に繋がれていた心が、完全に鎖を打ち切って自由になったと実感できた。
 爽やかでとても清々しい気分だ。

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