呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 ガウガウという唸り声とハリーがクリスに呼びかける声が聞こえてくる。
 鳥かごに辿り着いたエオノラはすぐに錠前を手に取ってダイヤルを回した。
 指の震えと汗で滑って上手く動かせない。
「解錠はまだか? 俺は実践的な魔術は正直苦手だ」
「もう少しです!!」
 額に汗を滲ませながら、エオノラは必死にダイヤルを回していく。
 鍵を開けるのに途方もない時間が掛かっているような感覚に陥ったが、ようやっと鍵が外れた。

「ハリー様、中へ早く入ってくださいっ!!」
 鳥かごの中に入ってハリーに呼ぶ。
 彼は最後の一撃を放つと、鳥かごの中に入ってきた。
 透かさずエオノラは扉を閉める。
 ハリーの後を追いかけてきたクリスだったが鳥かご手前で立ち止まると、鉄柵の周りを彷徨いて唸った。


「襲って……こない?」
「思った通りです。今のクリス様はルビーローズを傷つけられないから、近くにいると攻撃ができないんです」
 そう呟いたエオノラは背後にあるルビーローズへと向き直ると地面に膝をつき、そっと幹へと手を伸ばした。
「教えて、呪いを解くには、あなたの花を咲かせるにはどうすればいいの?」
 目を閉じて意識を指先へと集中させる。

 暫くして目を開いたエオノラは蕾がついた枝を掴むと手折った。無数の棘がある枝を無遠慮に掴んだので手のひらは傷ついて血が滲む。
 手折った枝のルビーローズの蕾はみるみるうちに宝石の様な輝きを失っていく。
 エオノラの奇行に一驚するハリー。だが、彼はさらに驚かされることになる。
 なんとエオノラはそのまま鳥かごから外へと飛び出したのだ。
「馬鹿な真似はよせ!」
 ハリーは正気なのかと非難の声を上げるが、エオノラは目を細めるだけ。
 彼の心配を余所に、エオノラは静かにクリスの前に対峙するとルビーローズを彼の前へと差し出した。

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