幸せ太りした姉の代わりに新婦役を引き受けたら、姉の夫と見知らぬ男が取り合いを始めました
 そんな子供の様な争いをしている二人を、呆れた顔をして見ていると、そっと若い婦警さんに肩を叩かれた。
 指差した方を向くと、そこには芳樹さんが乗っていたのとは別のパトカーが停められていたのだった。
 私は婦警さんの手を借りると、バージンロードを歩く新婦さながらに、パトカーに向かって歩き出したのだった。

「あっ、みどりさん!」
「待ってくれ。みどり!」

 私は背を向けていたから声しか分からなかったが、どうやら私に気づいた和田山さんと芳樹さんが騒ぎながら後を追いかけて来たようだったが、それを阻止するように他の警察官が二人の前に立ちはだかったらしい。

「詳しくは署で聞かせて下さい」
「そ、そんな。みどり〜!」
「気安くみどりさんの名前を呼ぶな。この干物男!」
「そっちこそ、僕のみどりに気安く話しかけるな! 誘拐犯」
「なんだと! 喧嘩売ってるのか、干物男のくせして!?」

 私達の後ろで、大人気なく騒ぎ続ける二人を見た婦警さんは苦笑していた。

「大変ですね」
「……そうですね」

 婦警さんが式場まで送ってくれるとの事だったので、その言葉に甘えることにした。
 パトカーの中で待機していた別の婦警さんがドアを開けてくれたので、私はここまで連れて来てくれた婦警さんの手を借りて、人生初のパトカーに乗車したのだった。

(後は当事者同士で勝手にして下さい)

 私はあくまで幸せ太りした姉の身代わりなので、私を巻き込まないで下さい。
 式場に戻ったら、最初にみどりにこう言おうと決めたのだった。
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