小さな願いのセレナーデ
三年前、ウィーンにて
───三年前
正確に言えば、二年八ヶ月と少し前。


(ここか……)
私はバイオリンのケースを片手に、大昔に建てられた石の建物を前に立っていた。
古き良き時代のウィーンを連想させる、歴史を感じる建物だ。ちゃんと赤と白の旗をかかげているのは、ウィーン市観光局が定めた建物である印。
インターホンを押して鍵を開けてもらい、玄関に入る。ちなみにここは博物館とは言え、普通の住民も住んでいるアパートでもある。
中庭を通り、右側にある細く薄暗い階段を登ると、静かな廊下に出る。
案内通りに進むと、一つの部屋に行き着く。

掲げられているプレートの文字は『SCHUBERT STERBEWOHNUNG』
シューベルト最期の家。
そう、ここは偉大な作曲家シューベルトが、最期を迎えた場所なのだ。

私は少し緊張しながら、ドアを開ける。
受付でお金を払い中に入ると、展示品としてキャビネットやシューベルトの死亡記録、遺品目録などが展示されている。
部屋は言うほど広くはなく質素な造りで──歴史に名を残した人物の最期としては、少し物悲しくも感じてしまう。

次の部屋は、柔らかい光が窓から差し込み、中央のピアノを優しく照らしていた。
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