小さな願いのセレナーデ
いや私のせいで、何か二人が結ばれないんだったら、何かそれは責任を感じる。

「瑛実」
「はい?」
「一応晶葉と瑛実の契約は、今学期末だからあと一ヶ月切っている」
「はい……」
「一応今回は『個人契約』という形を取ってるから、教室は仲介に入っただけ。瑛実と晶葉の契約内容に保護者と恋愛不可の項目はない」
「あ、良かった……」
「それでもうすぐ碧維も二歳になる。この辺の保育園は定員一杯だし、できれは幼稚園が決まってから引っ越しさせたい。ユキさんも歳だし、無理して晶葉の仕事に支障が出ても困る」


どうだ?ってドヤ顔したお兄ちゃんが、晶葉先生を見ている。
何だかムカつく顔だが、言ってることはまぁ賛成できる。

ただ晶葉先生は、やっぱり戸惑っているみたいだ。

「ええっと瑛実ちゃん。本当に私と碧維はここで暮らしてもいいのね…?」
「はい、是非とも!」

勢いに任せて晶葉先生の両手を手に取る。
前のめりの私に少し退きながらも…すぐにほっとした顔に変わった。


「じゃぁ毎日みっちりとレッスンできるわね」
「お、お手柔らかにお願いします…」

そう言われて一瞬後退りする私を見ると、晶葉先生はクスりと笑った。


きっと私が先生をお姉ちゃんと呼べる日は、近いうちにやってくるだろう。


ウィーンに旅立つまであと少し。
それまできっと、うちは賑やかになる筈だ。
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