小さな願いのセレナーデ
了承すると、ちょうど保護者の方の都合が付き、今日なら顔合わせできるとのことらしく、早速行くことになった。今日のこの時間はグループレッスンの補助だったから、代わりの人があっさりと見つかったのは幸い。急な話だったせいで、何故か生徒さんの名前が私まで伝わっていないのだが。


「はい」
インターフォンからは、控え目な女の子の返事がする。

「すいません、学校からの紹介で来ました下里晶葉と申します」
「はーい、迎えに行くので中で座って待ってください」

自動ドアが開き、中に足を踏み入れる。
中はまるでホテルのロビーのような、広いガラス張りのホールになっている。いつくもあるソファーに天井には煌びやかなシャンデリア。壁には美術品をダウンライトが照らしていて、豪華絢爛な造りだ。
奥のカウンターのコンシェルジュを尻目に、窓に近いソファーに腰かけた。

(どんな子かな?)
来年ウィーンに旅立つ予定の、高校三年生だと聞いている。声の様子は可愛らしかった。
きっとまぁ、お嬢様育ちの可憐な方なのかな?というのが声からの想像だ。


「こんにちは」
声のする方向に顔を向けると、制服を着た女の子がやってくる。
うちの高校の制服を着た子で、顔立ちもすごく整っていて可愛らしい。ふわふわとした黒髪がさらに可愛く、可憐な空気を醸し出している。
だが立って頭を下げようとした所で、一瞬心臓が止まりそうになった。

(な、何で……!?)
女の子の後ろに居る男性。
それは何と……彼だった。久我昂志さん、まさにその彼だった。
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