小さな願いのセレナーデ
空白の三年

──もう碧維とは会わせられない。
そう思っていたのに。

「えっ…日曜日も、ですか?」
神妙な顔で見つめる瑛実ちゃんと、後ろでうんうん頷くユキさん。
水曜日の出張レッスンの終了後、何故か日曜日もレッスンをして欲しいと打診されているのだ。


「あの、日曜日のレッスンは子供の預け先が無いから断っていて…」
「私が見ますから、問題ないですよ」
「えーっと、でもあまりここで遊ばせるのは…」
「このマンション、入居者が使えるキッズルームがあるんですよ」


ユキさんの言葉に、少し揺らぐ。
正直、休日に少し疲弊していたのも本当。
朝から夕方まで碧維のエンドレス公園が少し辛いのも本当な話なのだ。


「先生お願い!ちょっとこのままだったら本当に危ないんです!お願いします!」

多分だが……きっと玉井先生に唆されたのだろう。必死に頭を下げる彼女の向こうに「もっと下里さんに厳しく教えてもらいなさい」と言い放つ、厳しい顔をした玉井先生が見えるのだ。


(うーん……)
先生の問題は、私から連絡を試みるとして。
さすがに断るとは言い出せない。

「……わかりました、やりましょう」
「ありがとうございます!」

こうして私は、碧維を久我家に連れていくことになった。
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