小さな願いのセレナーデ
「じゃぁユキさん、本当にお世話になりました。あとミニカー、本当にありがとうございました。帰ります」
あまり長居も良くないな…と、思い挨拶を済ませると「行くよ碧維」と手を引っ張る。
だが碧維はコテと動かない。

「やだぁー」
ぐるんと回り抜け出して、すべり台まで走っていく。
そのまま階段を駆け上がっては、「ママ!ママ!」と頂上で叫んでいる。

「なぁ、ママと遊びたいよなぁ?」
「でも部外者だし……」
「俺が認めてるからいいよ」

ユキさんも「やっぱりママが一番ですね」と。
「あんまり元気が無かったんですよ。だから思いっきり遊んであげて下さいね」

そうか……きっと碧維も我慢していたんだな。
まだ二歳にもなってない子だ。いきなり知らない人と過ごしたのだから、当然だろう。

顔を碧維に向けると、満面の笑みでこっちを見ていた。

「ママー!」
「碧維、行くね」
私はバイオリンを近くのユキさんに預けて、すべり台の階段を上がっていった。

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