小さな願いのセレナーデ
最初は勿論、断っていた。
きっともうバイオリンは弾けない…そう諦めていたが、先生に押されてバイオリンを弾くと、意外にもちゃんと弾くことができた。
違和感があった聞こえ方も、何故か随分と戻っていた。

徐々に練習を開始し、毎日碧維をおんぶしながらバイオリンを弾いた。
色んな人にも協力してもらい、徐々に三重奏、四重奏の演奏もできるようになった。


でも大人数──複数の木管楽器、金管楽器が入った演奏は、やっぱりダメだった。


「今でも種類が多いアンサンブルの『生の』演奏は聞けないの。でも録音なら大丈夫だし、他は講師としては不自由しないぐらい回復してる。
まぁもう一度、オーケストラの中で演奏するのは、無理だと思うけど……」


これがあのウィーンから、空白の三年間。

言い訳をすると、私ははっきりと、彼の元を去ろうと決めたわけではなかった。
でも……自分から彼に行動をおこす、それができなかった。正面からぶつかる勇気も、手繰り寄せてまで繋ぐ、そんな強い意思がなかっただけだった。
楽団を辞めたのも、そう。
何がなんでもしがみついて、いつかは絶対に復帰する。そんな意思が持てなかった。

全部私が、弱かっただけだった。

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