小さな願いのセレナーデ
「ただいま、あ、先生!」
ちょうど瑛実ちゃんが帰ってきた。
私の姿を見ると駆け寄って、頭を下げる。

「ごめんなさい連絡を忘れてて……お兄ちゃん?」
ふと視線が横にずれると、驚いた声が上がった。

私の演奏を聞いたら寝てしまった。そう伝えると更に驚いていた。
「お兄ちゃんね、殆ど寝れない人なの。こんなうたた寝することあるんだ……」

瑛実ちゃんの様子からして、彼が寝れないのは本当の話みたいだ。
じゃぁあれも、この状態も、一体何なのだろうか。


「ていうか、どうしよう。30分だけでもレッスンやる?保育園間に合う時間内になるけど」
ふと時計を見ると、時間は五時前を指している。
どうせなら、少しでもレッスンした方がいいだろう。

「あぁ、だったら私が迎えに行きましょうか?」
「でもユキさん…」
「うちの方面も先生の家の方面なんですよ」

もう夕飯の支度も終わったし、直帰扱いなら早く家に着けるから、むしろ有難いんですとも。

「じゃぁお願いしていいですか?」
碧維の保育園の場所を伝え、隣の公園で合流することを約束。保育園にも連絡を入れて、私は瑛実ちゃんのレッスンをすることにした。
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