小さな願いのセレナーデ
「悪いけど、今日あなたが来る日だと聞いたから、待たせて貰っていたの。今お父様が、昂志さんとお会いしている」
「そうですか。私は瑛実さんに用が…」
「あなたって、ピアニストの土屋秀機さんと噂になってますよね」
「……そう、なんですか」
「怪我を負ってまで、彼を庇った健気な人だって」
「……よく知ってますね、怪我のこと」
「私、土屋さんの後輩よ。今でも高校の先生とも交流がある。だから土屋さんに関しての話はよく耳にするのよ」

実は秀機君は内部進学ではなく外部の高校から入学した人だ。
詳しくは聞いてないが、まぁ彼女が後輩なのは、間違ってはいないのだろう。


「あなたが昂志さんの彼女なのは、本当なのかしら?」
そう聞かれて──素直に頷けなかった。
本当に彼の肩を持つなら、嘘でも頷いた方がいいのに。


「そうよね、土屋さんと結婚するんでしょう?土屋さん、あなたと結婚すればヒーローだし、あなたもヒロインじゃない。自分の為に怪我を負った人を支えて、愛を育み結婚って。二人の健気な愛に、皆感動するわね。セントラル退団してから、あなたパッとしてないし」

ニヤニヤと笑う彼女は、毒を孕んだ言葉を吐き続ける。
彼女はわざと、そうさせる言葉を選んでいる。
彼を諦めさせる為の言葉を。
私が一番傷つく言葉を。

性格悪いな。煩い。
そう思う。だけど少なからず当たっているから、言い返せない。
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