彼と彼女の好きなもの
1. 彼
 彼氏と別れた。

 一緒に住んでいた部屋から出た日は曇りで、雨でもなく晴れてもいなかった。

 今日、彼に新しい彼女がいる事を知った。

 たぶん、その人と好きな映画を見るのだろう。そしてあれこれ言いながら好きな珈琲を淹れてあげるのだろう。

 それとも違うかも。もしかしたら映画も珈琲も嫌いな女の人で、彼は全くしないかもしれない。そうかもしれない。あんなに好きだったとしても。
 彼にもしかしたら、そうさせる女性かもしれない、かも。

 最近の私は映画をずっと見てないし、コーヒーはインスタントばかりだよ。
 もう、あなたの煩い解説を聞かなくてもいい。
 でもね、聞いた事は覚えているよ。
 あなたの好きな映画も珈琲も、話している時の笑顔も、
 覚えている。

 あの日々は二度と戻らない。
 繰り返したい訳でもない。
 でも、あの日々は、あの香りは、あの笑い声は、あの光は、私のもの。ずっとずっと。あの日のあなたは私のもの。
 そして、あの日の私はあなたのものだった。


 夏空に入道雲。晴れた空は眩しい。
 目を細めて見上げて伸びをする。

「夏だね! あー、恋がしたい!」

 隣の友人が笑った。





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