まき
キス
あの日から、週に2回ほど晃貴から連絡が来るようになった。学校の終わりにすぐに来いって言われ、良が迎えにくるから無理だと伝えれば家に帰ったらすぐに来いとのこと。


行くのは晃貴の家。
晃貴の部屋。










──呼び出されて、もう何回、あの痛みに耐えただろう。

もう5回は超えているはずなのに、もう血は出ていないけど痛くてたまらない。




「またな、真希」


ただここ2回程で変わったことと言えば、晃貴の部屋を出る直前、晃貴が血で滲む私の唇を塞いでくる。

いつも嫌で自分自身で噛んでる唇を。


行為中は1度たりともキスをしたりなんかしない。


後頭部を押さえられてされるがままの私は、息苦しさのせいで晃貴の服を掴むことしか出来なくて。


「真希」


私の名を呼ぶ晃貴と、至近距離で目が合う。


なに?


早く離して欲しいのに。
家に帰りたい···。


「明日、3時、倉庫な」


3時?
ああ、そういえば明日は土曜日···。


こくんと頷く私を確認した晃貴は、もう1度という風にゆっくりと唇を重ねてきた。


ヒリヒリと、噛みすぎた唇が痛い···。


門限が7時だと知っている晃貴は、きちんと私が門限までに家へ帰れるよう私を帰してくれる。

自分のことしか考えていない悪魔は、きっと門限が厳しくなれば私と関わる時間が少なくなるとでも思っているのかもしれない。



次の日、晃貴の言う通りに倉庫へとやってきた。先週の土曜日ぶりだから、ここに来るのは4回目。
ジロジロと見てくるガラの悪い不良たち。

どうやらもう顔パスになっているらしい私は、部屋へと入る私に誰も何も言わない。


ここの人達も、私は聖くん側と思っているのだろうか。




15時ぴったりに扉を開けると、そこには晃貴の姿はなかった。いると思っていた私は「え?」と当然びっくりした顔をして。


「お前···」


晃貴ではなく、そこにいたのは全てが怖いように見える徹だった。徹は私の姿をとらえ、ボソッと声をもらした。



「晃貴に呼ばれたのか?」

知ってるんじゃないの?と、心の中で思った。
先週も、晃貴に呼ばれて来たのに。


「···はい」

「まあ、入れよ。晃貴、まだ来てねぇけど」


来てない?
人を呼び出した晃貴が来てないの?
なにそれ···。


こうして徹と向かい合ってソファに座るのは、初めてここへ来た時と一緒だった。唯一話が通じる徹。だけど晃貴には逆らえない晃貴よりも下の人間。


ソファに座る徹は何も言わない。
ただ携帯を触りながら、怖い顔をしている。
銀髪の徹が子供好き、そんなの到底思えないし信じられない。



「市川だっけか」


その時、徹が名字を言った。
視線を下に向けていた私は、突然名前を呼ばれたことに驚いて顔を上に上げた。
もう携帯を触っていない徹は、鋭い瞳で私を見ていて。



「···そうです···」

この人に名前を呼ばれるのは初めてかもしれない。


「あんたには本当に悪いと思ってる···」

「え?」


いきなりなに。


「本当は俺が晃貴を止めなきゃなんねえのに、こんな事になって」

唯一まともな徹は、久しぶりに私と会話をしても謝罪しか言わないらしい。


「今更、謝られても困ります···」

「···そうだな」

「そうだなって、本当に思ってるんですか···」


八つ当たりだったと思う。
晃貴にはこんな事言えないから、唯一言える徹にはこうも簡単に言えるんだから。


「恨まれても仕方ないと思ってる」

恨まれても?

私が徹を?


「私···、徹さんは恨んでません···」


私をここへ連れていた金髪の男。
そしてトップにいる晃貴は恨んでいるが、私を助けようとしてくれた徹を恨もうとは思わない。


「晃貴に酷い事されてないのか?」

酷い事?
沢山されている。

昨日されたし···、四日前だって···。無理矢理···。


「されたって言っても、徹さんは何もできないじゃないですか」



そうでしょ?
だからこうなってるんでしょ?

少しヤケになりながら言う私に、徹は続ける。



「俺たちは晃貴に頭が上がらない。あんたには分からないと思うけど、清光ではそれが当たり前なんだよ」



頭が上がらない?
清光高校では当たり前?

なにそれ···。
そんなの、私には関係ないし。
言い訳にしか聞こえない。


「清光ではそれぞれのトップになると、そのトップには逆らえない掟ってのがある」


それぞれのトップ?
じゃあ、晃貴以外にも上の人間がいるということ?


「掟···」

「ああ、清光は昔からそうらしい」


昔から···。
下の人間は、上の人間に逆らえないくだらない掟。



「その地位につくのは相当な実力者しか無理だ」

「···実力者?」


上の人間になるには、
何かしないといけないってこと?


「簡単にいえば喧嘩が強いってことだけど···、それだけじゃ務まらねぇ。頭も使わなきゃな。馬鹿みたいに殴るだけじゃ誰にだってできる。晃貴はああ見えて、やべぇぐらい喧嘩強いし、頭もいい」

「···」

「だからこそ、晃貴は山本が嫌いなんだ」

「···え?」



聖くん?

どうしてそこに聖くんが出てくるの?


だからこそ、の意味が全く分からない。



「山本がいる魏神会は、ただの仲良しごっこだからな」

仲良しごっこ···?
そう思われてふと思いつく。

穏やかな聖くんを。
総長をしているとは思えない聖くん。

晃貴や徹みたいに、悪いことをしているとは思えない。私がその現場を見ていないからそう思うだけかもしれないけど。

護衛という守りにしか入っていない。



「聖くんと喧嘩をしたいっていうのは、晃貴が一方的に聖くんを嫌っているからですか?」

「まあ、それもある」


それも?
他に理由が?


「魏神会をつぶせば俺らの名が上がる。そうなれば逆らうやつはもっと少なくなる。晃貴はそれも考えて山本を選んだ。あんたにとっては巻き込まれていい迷惑かもしれないけどな」


喧嘩の強さと、頭の良さでトップにたった晃貴。
そんな晃貴には逆らえないという清光高校ならではの掟がある。

そんな立場にいる晃貴は、仲良しごっこをしている聖くんを嫌っている。仲良しごっこという意味はよく分からないけれど···。

名をあげたい晃貴。
逆らう人を少なくしたい晃貴···。

そのために聖くんと喧嘩をして、勝って、そうなることを目的として私がエサとして捕まった。


「どうしてですか?」

「なにが?」

「徹さんが私を巻き込みたくないって言ったのは、本当に私が関係ないからですか?」


外にいる彼たちよりも、上の人間の徹。
そんな徹も、名を上げたいと本当は思ってるのでは?


「そうだな」

徹の目が、細くなった。


「女を巻き込みたくないってはある」

「······」

「けど、関係ない奴を脅したっていうレッテルを貼られればそれだけ悪い噂が流れる。晃貴の名前がそういう風に広まっていく。だからあんたを使いたくなかった」


ということはつまり、私に謝ってくる徹は、実際、ここの事しか考えて無かったってことでは?


晃貴側の徹。
それは変わらない。


私は聖くん側なのだから···。


「そうですか···」


徹に文句を言おうとも思わなかった。
だって徹は、私の話をきちんと聞いてくれる唯一の人だから。


どうしてか、徹だけは恨めない···。


徹が煙草に火をつけて、紫煙を吐き出した時だった。────コンコンと、ノックされる扉。

誰かがここへ来たらしい。
ノックをするってことは晃貴じゃない。晃貴はノックもせずに部屋に入るから。


「入れ」

そう言う徹。


効果音とともに扉を開け、入ってきたのは···


「失礼します。あの、晃貴さんは?」

忘れもしない。私をここへ連れてきた張本人の金髪の男だった。


「まだ来てねぇよ。なんかあったか?」

「あ、いえ、外で花火する許可貰おうと」

「花火?」


すると、徹は立ち上がり金髪の男の方へと歩いていく。


「今からすんのか?」

「はい」

「まだ明るいぞ、やるなら夜にやれよ」


会話をする徹は、私と話している時よりも少しだけ声のトーンが高くて。



「これいつのか分かんなくて、湿気ってたら火ぃ付かないじゃないですか。それ調べようと思って」

「好きにしろよ倉庫の外ならいいから」

「マジっすか?徹さんもしましょうよ」

「そうだな···、────市川」


名前を呼ばれて、徹と目が合う。



「一緒に来いよ」


一緒に?
なぜ?
私が?


「いいんですか?そいつ、晃貴さんのお気に入りじゃないっすか」


晃貴のお気に入り?
私、他の人にはそうやって見られてるの?


「いいんだよ、ちょっとぐらい遊んだって。来てないあいつが悪い」


遊ぶ?
私が徹と?

花火で?



「康二、水用意しとけよ」

「はいっ」


金髪の男は、コウジという名前らしい。


案の定というか、予想通りというか。
部屋から徹と一緒に出てきた私を驚いて見る彼らたち。



「結構あるな」

そう言うのはぷかぷかと煙草を吸っている銀髪の徹。

徹の言う通りだった。新しいものがあれば、封を切っている花火もある。ネズミハナビや、音が鳴る花火。名前が分からない花火も沢山あった。



もう花火は始まっているらしく、明るい時間帯なのに、ワイワイと騒いでいる彼ら。
明るい時間の花火は、煙が凄く目立つ。





「どうぞ、徹さん」

名前も分からない茶髪の男が、何本か花火を徹に渡した。それを受け取った徹は私へと半分を差し出してきて···。


え?私もやっていいの?
見るだけだと思っていた私は、内心驚いていた。


「湿気見るだけじゃ無かったのかよ」

私が思っていることを笑いながらポツリと呟いた徹は、火がついている煙草を花火に近づけた。
火がつく花火。全然湿気てない。

いや、それよりも···。


「あんたもやれよ」


徹が笑ってる···。
あんなにも怖い顔の徹が···。


「徹さんっ、こっち蝋燭ありますよっ」


驚いている私に、徹が「行ってこい」と言う。


行っていいの?
私、聖くん側なのに?

花火をしてもいいの?


オドオドとする私に、徹は「じゃあこれ持て」と自身でつけた花火を私に渡してきた。
火がついている花火。
懐かしい、いつぶりだろう。



「あ、あの徹さん···」


本当に私してもいいの?というふうに、徹を見上げた。


「あいつらバカだから気にしてねぇよ。そんな考えんな」


確かにもう私を見てくる人はいなかった。
それぞれ花火を楽しむ彼らは、私のことなんて眼中に無く、どうでもいいようで。



「夜の分、無くなっちゃいますね」


私が笑うと、「それあいつらに言ってやってくれ」と、徹は怖い顔ではなく、私に向かって優しく微笑んでくれた。


心配症な徹。
子供が好きな徹···。

自然と私も自ら蝋燭で火をつけていた。


何年ぶりだろう。
小学生のころ、家族でした事があるけど、いつのころか覚えていない。



ある人はネズミハナビで遊び、
ある人は3本持ちなどしたりして。

はしゃぐ彼らはを見て、私も笑っていたと思う。本当にバカみたいに騒ぎまくる彼らは、私とは程遠い人たち。だけどそれを見るのが楽しいと思えた。



「これするか?」

もう手持ちがなくなり、ほかの人たちがしている花火を見て、笑っている時だった。
そう私に言ってきたのは、金髪の男だった。確か···名前は康二···。


「え?」


少しだけビクっとした私に、差し出してきたのは線香花火が何本かはいった袋だった。




「女って、これ好きだろ?」

康二が私に?
わざわざ?


「あ、ありがとう」

確かに、1分火花が落ちなければ願いが叶うとかいうジンクスがあったような?女の子はそういうの好きかもしれない。


「あー待てよ、それだったらライターのが付けやすいな。お前ライター持ってんのか?」

普通に話しかけてくる康二に驚きながらも、私は顔を横にふった。ライターなんて、持ち歩いたことない。



「じゃあ俺の使えよ」

「う、うん」

差し出されたライターを受け取り、また別の線香花火があったのか、それに私に渡してきたとは違う別のライターで火をつけた康二。


もしかして、一緒にするの?
驚きながらも、私は袋から線香花火を取り出した。

渡されたライターで火を付けようとした時、「悪かったな」と小さな声が耳に届いた。

それはどうみても、しゃがみこんで線香花火を楽しんでいる男から聞こえて。


「お前···関係無かったのにな」

私をここへ連れてきた張本人の康二。


「···うん」

「今更、遅いかもだけど···」

「いいよ、もう」


確かに、もう今更って感じだけど···。

謝ってくるとは思わなかった。


「花火、こんな私にもさせてくれたから···、もう怒ってないよ」

まだ恨んでいるという気持ちはあったと思う。
だけど、やっぱり···殺したいほど恨んでいるわけじゃないから。


「こんな私ってなんだよ」

その時、ポトリと、康二が持っていた線香花火が落ちた。


「私は、聖くん側の人間だから」

「何言ってんだお前、···いや、合ってんのか。そうか、お前って妹だもんな」

「······」

妹···。
聖くんの彼女の妹···。



「あんま深く考えなくて良くね?」

「え?」


康二は意味が分からないことを言いながら、また一つと、線香花火をライターで火を付けた。


「お前だって、1人の人間じゃん。確かに妹かもしんねぇけど、姉貴とは違う人間だろ。つーか、山本側って···、言われて気づいたわ、そんなの考えたこと無かったな」

「······」

「ただ、妹だから拉致ればいいって思ってただけだし」

「······」

「いやでもお前、魏神会とは関係ねえんだろ?」

「······」

「じゃあ山本側ってのもおかしくね?ん?あれ、妹だから山本側になんのか?わけ分かんなくなってきた。でもお前姉貴とは違う人間だもんな。じゃあ違うのか?」

「あ、あのさ、康二···」

「なんだよ、ってかお前呼び捨て···」


「私ってお姉ちゃんと違う?」

「さあ、知るかよ。つーか違うだろ。そもそも名前だって違うじゃねぇか」

「······」

「変なやつだな」

「康二に言われたくない」

「はあ?ってか呼び捨て···。つーか、お前花火しねぇの?」

「したいけど、ライターが上手く付かなくて···」


おしているのに、カチッと音が鳴らない。


「ああ、それ、ロック式で···」



ロック式?
ライターにそんなのがあるの?


「貸してみろ」という康二にライターを渡そうとした時だった。突然、ライターを持つ私の手が誰かの手によって包まれた。

目の前にいる康二じゃない。


「貸せ」


私の背後からそう言う男は、私の手からライターを取った。そのまま指を動かし、ライターに火を灯す。


「なにしてんの、真希ちゃん」


後ろを向かなくても誰がいるのか分かる。
この声は、悪魔の声···。


ぞわりと、背筋に悪寒が走ったような気がした。

そのままライターを私の顔に近づけていく。あと3センチほどの距離。「真希ちゃん」と、私の名を呼ぶ晃貴の声は穏やかなのに、晃貴の行動はイカれてる。
数センチでも動けば、私の顔は火傷してしまうだろう。



晃貴が怒っている。
そう感じた。


「こ、晃貴さん」

目の前にいる康二が呟く。


「外に出ていいって言ったっけ?」

背後から晃貴が言う。

いつ、ここへ来たんだろう。
ここへ来て、すぐに私の元に来たんだろうか。



「晃貴が悪いんだもん···、3時って言ったのに、いなかったのはそっちじゃない。それにずっと中にいろって言われてない」




私は悪くないと、手に持っていた線香花火を握る。
だってそうでしょ?晃貴がいれば、こうやって花火をしていなかったかもしれないのに。


言い返した私を見て、康二は驚いた顔をしていて。



だけどそれよりも、

「そうだな、遅れてごめんな」

ライターの火を消し、素直に謝罪をいう晃貴に、目が見開くぐらいもっと驚く康二。


「康二」

「は、はい」


晃貴に名前を呼ばれ、康二が返事をする。


「徹に今日もう来ねぇって言っといてくれ」


晃貴はライターを康二に投げ、そのままその腕は私の肩へと回った。今日初めて見る晃貴の横顔。いつもと変わらない爽やかな表情で。


「分かりました」

ライターを上手くキャッチした康二は、晃貴に向かって頭を下げた。


そのまま晃貴は私の肩を抱き、歩きだそうとするから。


「康二っ、あの、花火」

手に持ったままの線香花火。
返そうと未だに驚いている康二に言うと、


「あ、いい、やるよ。またな」

軽く手を上げて、康二が少しだけ笑った。



「つーか、今度する時俺も誘えよ」

晃貴が歩きながら言う。「あ、はい」と康二が返事をしたのを最後に、晃貴は何も言わなくなった。


1度部屋により、私の鞄を取りに行くと、晃貴はそのまま倉庫から出て。
まだ怒っているのか、私の肩を掴む晃貴の手が、強く、少しだけ痛い。


ちらりと晃貴の方を見ても、爽やかな顔が見えるだけで怒っているのか分からない。

俺が悪かったって言ったのに、どうしてまだ怒っているのか···。


「···晃貴」

「あ?」

どこ行くの?と聞こうと思った。

けれど、聞くだけ無駄···。

今から行くのは、晃貴の家だろうから。



「何でもない···」

「なら、さっさと歩けよ」


さっきまで楽しかったのに。
一気に憂鬱な気分になった。


予想通り、ついた場所は晃貴の部屋だった。
晃貴の腕から、イライラとしたのが伝わる。
肩を抱いていた晃貴の腕が外れ、そのままベットへと向かって背中をドンっと押してきた。

ベットへと倒れ込む私の上に、ギシッと晃貴がベットへと乗ってくる。


「こ、こうき···」

「なんだよ」

「怒ってるの?」


私のジーパンのズボンに手をかける晃貴に問いかける。そしてそのままスっと向けられた晃貴の目。


「分かってんなら聞くな」



「さっき謝ったのは晃貴なのに···」

あれで終わりのはずじゃ···。
まだ私が勝手に部屋の外に出たこと、怒ってるの?


「それは遅刻した謝罪だろ」

遅刻した謝罪?


「じゃ、私に対して何に怒ってるの···」

「お前が康二と話してるからだろ」


康二と話してるから?
なにそれ。
意味が分からない。
康二と話してたから、晃貴は機嫌が悪いってこと?




意味が分からないまま、行為が進められる。




痛みを堪えながら下唇を噛む。
ああ、また、血が滲んできて血の味がする。



「真希」


その最中、名前を呼ばれ。


「あんま噛むな」


晃貴の手が、私の口元へと伸びてくる。

私の視界にうつるのは、痛みだけを与えてくる悪魔しか見えない。


晃貴の方を見ていると、突然、晃貴が前かがみになってきた。そしてそのまま私の唇を塞いでくる。


うるさい女は嫌いな晃貴。
声を出せば、写真をばら撒かれてしまう。

声を出さないようにしているけど、気持ちとは裏腹に出てしまう。



「声が出る」という私の顔から離れて、私の目を見つめた。その目は、少しだけ驚いたように開かれていた。


な、なに···?


「···マジかよ······」


マジ?
なにが···

意味が分からない。


「晃貴?」

首を傾げる私に、晃貴は項垂れるように体を預けてきた。そしてそのまま私の首の後ろに腕を回し、痛いぐらいの強さで抱きしめてきて···。



抱きしめられるなんて、初めてで···。


「こ、こうき、重い···」

なに?今、何が起こってるの?


「俺」

「え?」

「お前の声なら、うるさくてもいい」

「な、に」

「真希」

「······」

「あんま、他の男と仲良くすんな。お前、俺のだろ」


俺の?
確かに脅されているから、そう捉えても仕方の無いことだけど。


「うるさい女は嫌いじゃなかったの···」


「お前ならいいっつっただろ」

私ならいいとは────······。



深いキスをしながら、再び行為を再開させた。
全てか終わるまで、唇を解放してくれなかった晃貴。

私が息苦しい時は軽いキスに変わり、私に余裕が出てきては深くなる。



晃貴にされるがままの私は、今日はどうしたんだろうと、考えることしか出来なかった。
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