愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「なあ、止めたほうがええんちゃうの?」
友人の山下 カオリが心配そうな顔をする。

「止める?なにを?私という者がありながら他の娘と付き合うとかわけわからへんし」
私は学校が終わってカオリに付き合ってもらい、雑居ビルの隙間に隠れ、恋人、いや、元カレと言うべきか、そしてその彼女が来るのを待つ。

夕方――。
ビルとビルの間の河原町通の隙間から茜色の夕陽が見える。
4月、春爛漫。

夕暮れといってもたくさんのひとのせいか、それともこの季節のせいか、とても明るく感じる。
たくさんのひとたちが狭いアーケードになった歩道を歩く。

季節のせいか、それとも元々観光地のせいなのか、家族連れや友人連れ、それから恋人同士。
あちこち見渡したり地図を見たり、明かに地元の人じゃないような人が多い。
やたらと人が多い。

「醒めたっていうんやったらもうええやん」

「それはそれ、より戻したいなんてない。ただこのままそうですかって終わりたくない。悔しいもん。言いたいことは言わせてもらうつもり」
カオリは私の言葉にあきれたようにため息ついて、
それから壁にもたれビルの隙間から空を探すように見上げる。

私はそんな彼女の言葉を無視して、ビルの隙間からやってくるであろう、彼と彼女を待つ。




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