愛しの君がもうすぐここにやってくる。

ああ、そっか、時親様は彼女に言ってくれたんだ。
ちゃんと約束を守ってくれたんだ、桔梗さんのきれいな後ろ姿を見つめながら思う。

「・・・ありがとうございます!」

いよいよ琵琶を教えてもらえるんだ。
やっと願いが叶ってうきうきとした気持ちになる。

「・・・紫乃様に手習いや和歌も教えるようにと・・・」

「え?手習い?和歌・・・?」

琵琶じゃないの?
そして通された部屋にはなにか本のようなものが積み重ねられていた。

「ええ、和歌はとりあえず古今和歌集から始めてみましょうか」
静かに話す桔梗さん。

そりゃそれも条件で琵琶を習うこと約束したけど・・・。
最初は琵琶からじゃなくて、先にこっちってわけ?

ふたりとも私のことをお姫様だと思っているようだし、だからちゃんとお姫様の嗜みとして必要だからと考えているのだろうか。
ここでしっかりと教養を身につけていたのなら、元の場所に戻るまでにある程度の時間の空白があっても適応していけるだろうと。
そういうこと?

でももし私がお姫様じゃないってことがわかってしまったら。
追い出される・・・とか?

それは嫌だ。
お姫様と思って置いてくれているのなら、ばれないようにお姫様にならなければいけない。
私も本当のことを言えない、言わないのならそれなりに応えなければならない。


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