政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】

「もう大丈夫です」
「お前は意外とおっちょこちょいだから目が離せないんだよ」
「…それはすみません。ちょっとびっくりしちゃって」

 くっつきそうとか近いとかそういった表現を通り越して完全に彼の体と私の体が密着していた。
手が震えているのは緊張のせいであって、決して他の理由があったわけではない。が、楓君にはおそらく悪い意味で捉えられてしまったのだろう。

「今離れるから我慢して」

抑揚のない声でそう言われ、違います、と返すはずがどうしてか声が出なかった。痛みは徐々に引き、水ぶくれにもならずに済んだ。
しかし彼は心配性なのか救急箱を持ってくると私をソファに座らせ、患部に薬を塗るとガーゼで覆い処置をしてくれた。

「ありがとうございました…すみません」
「それはいいけど。気を付けること」

控え目に視線を流し、私は何度も頷いた。
隣に座っている楓君との距離は近いようで遠かった。先ほどの件で誤解をしてしまっただろうか。

妙な間が流れた。
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