政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
楓君のお陰で風邪は数日で良くなった。
その間、彼は仕事をしながら看病をしてくれた。いくら感謝しても足りないくらいだ。

 日曜日に松堂君と会うことに関しては体調も良くなったことから不安はなかった。

♢♢♢
 今日は午前中に久しぶりに仕事に来ていた。
風邪をひいて一日中寝ていたからか、久しぶりの仕事は結構きつかった。
シフト的に山内さんと被る時が多いが最近は苦手な斎藤さんとも一緒になることが多い。
 どうしてかやはり私には冷たい。
自分の担当する客室は全て清掃を終え、清掃具を運びながら廊下を歩いていると、前方に明らかに雰囲気の違う男性と女性がこちらに向かって歩いてきている。
ちょうど背後に山内さんがいて私に耳打ちする。

「あぁ、あれ確か社長?か副社長?だっけ。たまに来るんだよね」
「…」
「どうかしたの?」

 狼狽する私に心配そうな目が向く。
しかしそれに応える余裕は私にはなかった。
ちょうどその二人が私たちの前を通り過ぎる。頭を軽く下げ挨拶をする二人に続くように山内さんも挨拶をする。だけど私にはその余裕はなかった。

 立ち止まり、固まった。
そこにいたのは副社長である楓君とその隣を秘書である清川さんだった。

「っ…」

 楓君は一瞬私を見たがすぐに正面を向く。彼が私の夫だということは知られてはいけないし、そういう条件で頼み込んで働かせてもらっている。
それなのに、私の態度は明らかに不自然だ。
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