政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】

「なんだか、顔色が悪いから…」
「大丈夫」
「あの、ごめんね。昨日お酒飲んじゃって、全く覚えてないの。楓君の寝室に間違えて入ってごめんね」

 何度も謝ることではないのに、日和は申し訳なさそうに眉尻を下げて、視線をシーツの上に落とした。

「いいって。別に」
「うん…あと、昨日の…キスのことなんだけど」

 彼女は何かを決心したように俺を見据える。まさか彼女からキスのことを切りだすとは思ってもいなかった俺も上半身を起こして彼女に向き直る。

「私、別に嫌じゃなかったから」
「は?」
「だから、ええっと…ハグだけじゃなくて、キスもしていこう!」
「…」
「昨日の夜とかずっと気まずくて。同じ家に住むのに仲が悪いってやっぱり嫌だなって。キスは事前に言ってくれたら私も心の準備が出来るし、その…うん、私も仲良くなりたいから…楓君と」

 純粋で、真っ直ぐで、穢れを知らない日和を見ると無性に自分の手で汚したくなる。
 
 そんな彼女だから、“仲良くなりたい”の意味が俺のそれとは違う意味だということは理解している。
 俺と向き合おうとしてくれるその姿勢に俺自身も彼女と向き合わなければならないと実感した。

「キスしていいってこと?」
「うん…」

 顔を真っ赤にしながら、頷く彼女の目は若干潤んでいた。
この状況で押し倒すこともせず指一本触れていない俺を褒めてほしい。

「でもいいのかよ。キスは好きな人と、って言ってなかった?」
「…違う!それは…そういう意味じゃなくて、」
「どういう意味?」
「それは、」

もごもごと唇を動かす彼女が何を言いたいのか不明だ。
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