政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】

「いってらっしゃい」
「行ってきます」

 珍しく目の下のクマが酷い楓君は会社用の鞄を手にして家を出ていく。
ひらひらと手を振りながら、バタンとドアが閉まると同時に早歩きでリビングルームに行く。

 ソファに座り込み一人で悶えていた。

「仲直りできたから結果良しということ?」

 どうして夜中に彼の部屋に行ってしまったのか昨日の自分を殴りたくなった。そのお陰で仲直りが出来たとはいえ、自分からベッドに入るなんてどうかしている。
 ”週末は一緒に寝る”という約束を想像しただけで鼻血が出そうになるほど全身に血が巡る感覚がする。


…―…


 楓君が会社に行ってからすぐに突然彼から電話がかかってきた。

「どうしたの?」

 楓君が仕事中に電話を掛けてくるなど珍しい。
何かあったのはと思い、すぐに電話に出た。

「ごめん。日和、俺の部屋に白いファイルがあると思うんだけど」
「ちょっと待ってて!…あ!あったよ!」

どうやら何かを忘れたようで、指示された場所に行くと確かにその忘れ物があった。

「悪いんだけど、それ会社に持ってきてほしい」
「いいよ!もちろん!」
「ありがとう。よろしく」

 楓君に必要とされているような気になってすごく嬉しくなった私は急いで身支度を済ませ、タクシーを使って楓君の会社まで向かった。
彼の会社での姿を見たことがなかったからそれを知りたいという欲求もあった。
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