エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる～お見合い夫婦の片恋蜜月～
ビーフシチューはとてもよくできていて、ふたりでお腹いっぱいになるまで食べた。残ったものは冷凍しようか相談したけれど、少量だったので明日の朝、トーストと一緒に食べようとふたりで決めた。楽しみだね、と言い合う。こんな些細な瞬間がとても幸せ。

食後、ふたりでお茶を飲みながら、サブスクリプションで配信されている洋画を見た。ずっと見たかったラブコメを、好きな人と並んで見るのは嬉しい体験だった。私と駿太郎さんは、食事や結婚式の打ち合わせ程度のデートしか経験していない。映画館やテーマパークなどは出かけたことがなかった。
赤ちゃんが産まれて、その子が楽しめるようになったら一緒に行きたいな。

「あ、この俳優さん」

映画を見ながら、思わず声をあげてしまう。画面にはアジア系の壮年の男性俳優が映っている。

「祖父に似ていて好きなんです」
「芽衣子のお祖父さん、円山小鉄先生かい？」
「はい、父方の祖父です。亡くなって十年が経ちますけど、ちょうどこの俳優さんの雰囲気が当時の祖父に似ていて」

祖父に似た俳優さんはハリウッドで活躍している。以前も別な作品で見たときに祖父に似ていると思って、名前を覚えていた。

「円山小鉄先生の写真を拝見したことがあるけど、素敵な男性だったな。鉄二はお祖父さん似なんだなと思うよ」
「兄の百倍は祖父が格好いいですよ」

私の堂々とした宣言に、駿太郎さんが少しだけ可笑しそうに目を細める。
大好きだった祖父に、駿太郎さんを紹介できないことが残念だ。秋にはひ孫が産まれるんだよと今度お墓参りをして報告しないといけない。
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