エリート官僚は授かり妻を過保護に愛でる~お見合い夫婦の片恋蜜月~
室内は真っ暗だ。今は何時だろう。慌てて身体を起こそうとすると、両肩をがしっとキャッチされ、ゆっくりとベッドに戻された。

「体調が悪いんだろう? 眠っているといいよ。何か食べられそう?」

目を細め、おだやかに見つめてくる駿太郎さん。嬉しいより切なくて、力なく首を左右に振る。

「そうか。せめて、水分だけでも。ちょっと取ってくるよ」

そう言うと、彼は寝室を出て行った。今は何時だろう。枕元に置いてあったスマホを手に取る。明るい液晶には19:30と表示されていた。随分眠ってしまった。
いや、眠れたのは幸いだったのだ。眠ることで、現実から逃避できたのだから。

「スポーツドリンクを薄めたものだけど、どうかな?」

グラスにストローを差して持ってきてくれる。身体を起こして受け取ると、ベッドに腰かけ背中を支えてくれるのだ。本当に優しい駿太郎さん。

「ありがとう、駿太郎さん。ご迷惑かけます」

返したグラスを自分のデスクに置き、彼は微笑んだ。

「迷惑なわけがない。俺たちの赤ちゃんを育ててくれているんだから。むしろつらい思いをさせて申し訳ないよ」

ベッドに再び腰かけ、私の頬に貼りついた髪をのけてくれる。そのまま温かな手のひらが私の頬を包んだ。もう片方の手が私の背に回され、引き寄せられる。

ああ、抱き締められるんだわ、と思った瞬間、私の手は彼の胸を押し返していた。
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