課長と私のほのぼの婚

下田行き各駅停車

――というわけで、冬美は下田行きを決意した。

そして気がつけば、愛しい彼ゆかりの地へと旅するために、電車に揺られていたのだ。



「すごい、広い~!」


電車は今、海岸線を走っている。海を見渡せるこの区間は路線のハイライトだ。

あいにく今日は曇り空で遠くまで見えないけれど、それでも広々とした景色に圧倒される。


『次は伊豆稲取、伊豆稲取です……ご案内いたします。列車はただいま東伊豆海岸線を……』


車内アナウンスに耳を傾けていると、うとうとしてきた。

昨夜よく眠れなかったせいだ。


「……落としましたよ」

「えっ?」


目を開けると、誰かが傍に立っていた。その人が差し出すのは冬美のスマートフォン。


「わっ、す、すみません!」


一瞬だが眠ってしまったらしい。手から力が抜けて、スマートフォンを取り落したのだ。

冬美はお礼を言おうとして顔を上げた。


「おや、どこかで見たことがありますね」

「は、はい?」


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