課長と私のほのぼの婚
『どうです、野口さん。ここで出会ったのもなにかのご縁です。下田旅行をご一緒しませんか』

『はあ……ええっ!?』


それは絶対に遠慮したい。失恋の傷を癒し、推しへの思いにけじめをつけるために旅するのだ。誰かと一緒では気が散ってしまう。ましてや同じ会社の、しかも目上の人となんてとんでもない。


『あ、あの……しかしちょっと、それは』


失礼にならぬよう、適当な理由を言って断ろう。冬美はぐるぐる考えるが、とっさに上手い言葉が出てこず、しどろもどろになる。

課長は笑顔で見守っている。変わり者という噂だが、悪い評判は聞かないし、実際悪い人には思えず下心も感じられない。純粋に、親切心から誘ってくれているのだ。

でもやっぱり困っていると、彼は察したのか、妥協案を提示してくれた。


『では野口さん、とりあえず食事だけでもご一緒しませんか。その後は自由解散ということで』

『えっ? あ、はい。それなら大丈夫です!』


ハードルが下がったことにほっとして、思わず妥協した。

でも、やはりおかしい。

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