課長と私のほのぼの婚
「励ましてあげたいけど、きみにとって僕は同じ会社の人間というだけで、何者でもない。どうすることもできないなと、無力感に苛まれて、昨夜はよく眠れませんでした」

「そ、そんなに?」


赤の他人の私を、なぜそこまで……冬美は不思議に思いつつ、やっぱりもしやと考える。いやまさかそんなバカなこと、ありえない。

だが、バカを承知で訊いてみた。


「まさか、課長。私を心配して、下田までつけてきたなんてことは」

「ええっ?」


今度は課長が驚く。そして、とんでもないと手を振った。


「いやいや、違います。それではストーカーになってしまいますよ」

「で、ですよね」


でも、こんな偶然があるだろうか。さらに追及したくてむずむずしていると、課長が答えてくれた。少し赤い顔で。


「どうしても眠れないから、きみがそこまで好きなスケキヨくんとはどんな男なのか、気になって調べたのです。すると、彼が伊豆下田出身であることが分かりました。その情報が頭に残ってたんでしょうね。朝起きて一番に、『金目鯛の煮つけが食べたい』と思い付き、いつの間にか電車に乗っていました」

< 37 / 51 >

この作品をシェア

pagetop