私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠


 10年程前、まだ大学病院に籍を置く駆け出しの医者だった頃。
交通事故にあって骨折した田原医師に頼まれて『田原診療所』で代診を勤める事になった。

感じの良い住宅街にある診療所だが、患者の年齢層も幅広いし病気も様々だ。
時には末期の患者を看取る事もあった。

責任重大な仕事だと、引き受けてから気がついた。

緊張の連続で、気が抜けない毎日。

看護師はベテランだったが、二人いた受付の女の子はまだ頼りなかった。

注意すると、一人の子は泣き出してしまったっけ…。

もう一人の、高校を卒業したばかりの女の子が菜々美だった。

まったくの素人で一から勉強している彼女に、つい厳しい事を言ってしまう事も多々あった。

でも、彼女は注意した点は完璧に修正した。
わからない事も多かっただろうに、随分と勉強熱心だった。

暫くしてから診療所の看護師達が重い口を開いたのだが、
彼女は年明け早々に母親を亡くしたばかりで、一人ぽっちだという。



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