一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
「私は阿澄杏香って言います。杏の香りで杏香」

 私もプリントに自分の名前を書き入れる。

 顔を上げると、不思議そうに見つめる彼と目が合った。

「そっちの方がよっぽどきれいな名前ですよ」

「うれしいです。初めて言われました」

 私に名前を与えた両親でさえ褒めなかった。

 社交辞令かもしれないが、誰かに褒めてもらうというのは思いがけず気持ちがいい。

 今まで私の周りには寂しい言葉が多かったから。

 私と彼の会話は講義中ということもあってそこで途切れた。

 九十分を少しオーバーして教授が部屋を出て行くと、一気にがやがやと騒がしくなる。

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