一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
「……杏香ちゃんにはもう離婚しろって言わないし、深冬の知らないところでこっそり処分しようともしない。――杏香ちゃんもごめんね? まだなにもしてないから安心していいよ」

 彼の視線が再び私のグラスに移り、言葉の意味を遠回しに示す。

 そこにいるのは人好きのする笑みを浮かべたいつもの智秋さんだ。

 いつの間にか張り詰めていた空気が緩んで、知らず知らずのうちに止めていた息を吐き出す。

「これからは仲良くしたいです。智秋さんといる時の深冬を見るのが好きなので」

 智秋さんがぷっと吹き出したのと、深冬が私を小突いたのはほとんど同時だった。

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